かつては洋紙印刷にも和紙印刷と同じような諸問題がありました。

現在の日本で、洋紙に対する印刷技術は世界最高水準にあります。この技術をもってすれば和紙への多色印刷は十分に可能であり、将米にむけて印刷領域を広げる大きな展望が開けるはずです。しかし、そのためにはなお、いくつかの技術的に未解決の問題の克服が必要と思われます。


明治の初め頃まで、日本で印刷された紙はすべて和紙でした。明治十年代からは洋紙生産が活発化し、印刷の紙は洋紙に変わり、印刷方法も凸版方式から平版方式にうつり、いまではカラー印刷全盛時代です。この間、和紙印刷はモノクロームの世界でも特殊なものに利用範囲がせばめられ、多色カラー印刷はあきらめられてきました。ほんとうに和紙へのカラー印刷はできないのでしょうか?


洋紙中心の時代が、すでに一〇〇年も続いているのですから、印刷機械をはじめインキ、製版技術もすべて洋紙に適合させて作られてきました。しかし、振りかえってみますと、洋紙へのカラー印刷が最初からきれいに行なわれたのではありません。二〇年近く前のカラー印刷物でさえ、色がずれていたり写真の再現性が悪かったり、さらにはインキの色にも自然さがなく、現在の印刷物と比べられない程の酷い印刷物でした。それが印刷に関係する人達が改善しあい、現在の水準に達したのです。


和紙印刷も、紙を漉く人・印刷に関係する人たちが、研究しあい努力を重ねたら、カラー印刷はもっと手軽にできるようになっていたでしょうが、その努力がなく互いにあきらめていたのが現実です。


世界に誇る和紙は、洋紙にはない特性をもっています。この和紙に、洋紙に負けないきれいなものを刷れば、文化財の複製保存や特定の書画などの普及だけでなく、日常生活の中に和紙が生かされ、日本の文化継承や普及・発展に大いに役立つと思われます。これは印刷領域の広がりばかりでなく、和紙の需要拡大にもつながりましょう。


とくに今後、和紙印刷物への領域を広げるための問題は、つぎのようなことが考えられます。

  1. 特性である和紙の肌合のよさ、美しさをなくさずに、紙の平滑さをどう保つか。
  2. インキが裏抜けしない方法の工夫。
  3. 紙むけやけば立ちの防止。粘着力の強い印刷インキの和紙向けの改善。
  4. 紙の伸び縮みの防止。印刷機は強い力で紙を引っぱりながら刷ります。多色刷りの場合はその色数だけ引っぱりますから、機械機構を改善する。また、オフセット印刷での水の使用は紙の伸縮の原因となるので、その改善。
  5. 紙粉が出ないよう、紙を改良する。洋紙に比べ紙粉が多く、刷り版が汚れる結果、きれいに刷れないため、紙生産者の改良努力もぜひ必要になります。


これらの問題は、従来、洋紙印刷にもあったのですが、改良・改善されてきたものです。当然和紙生産者・印刷従事者、機械や材料生産者の一致協力で解決できるものであり、その機運も少しずつではありますが,高まっています。それを達成して和紙の多色カラー印刷の世界を大きく広げたいものです。
 

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p106-107

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