それは「自己接着性」と「繊維の長さ」にあります。

 化学繊維・人造繊維と呼ばれるレーヨン、ナイロン、あるいは動物の毛などを水中に分散させておき、それを金網ですくいあげ、乾燥させても、それらはばらばらに切り離されていて、一枚のシートにはなりません。

 ところが、木や草の繊維を同じようにしてすくい上げ、そのまま日に干して乾燥させると、丈夫なシートができあがります。なぜでしょうか――。

 植物の繊維には“自己接着性”があり、繊維と繊維の重なった接点は互いにくっつきあうからです。この性質が偶然発見され、古代中国での紙の発明・改良につながったものです。

 この自己接着という性質を知るには、繊維とは何か、を知ることが先決です。
 植物繊維(セルロース)は、ブドウ糖からできています。このブドウ糖がたくさん長くつながって出来たものがセルロース分子というものです。これは水には溶けないが水とよくなじむ性質(親水性)があり、このセルロース分子がたくさん集まってできたものが繊維です。

 親水性というのは、セルロース分子のところどころに、水の分子と同じ型をした部分があり、その部分と水とは良く結合するために生まれる性質です。そのため植物繊維は、水となじみやすく、繊維を水に浸けると非常によく水を扱い膨張します。

 繊維に十分水を扱わせて、それをシート状にして乾燥させると、今まで水と結合していた繊維と繊維の接触している部分が、こんどは繊維同士の結合に変わり、ひとつひとつの結びつきは弱いのですが、紙全体では数えきれないほどたくさん結合するので、大きな力となり丈夫な紙ができるわけです。この繊維同士の結びつき方を専門家は水素結合と呼びます。

 新聞紙などの洋紙に比べ、和紙の強さの秘密は、繊維の長さも関係しています。手漉き和紙に使われる楮の繊維の長さは平均七・三ミリメートルあり、また三椏は三・二、雁皮五・〇ミリメートルと測定されています。これに対して主に機械抄き紙に使われる木材パルプの繊維の長さは、松・モミなどの針葉樹パルプが二・三、ブナ・ナラ・シイなどの広葉樹パルプが一・〇二ミリメートルで、手漉き和紙の原料の方が長いことが分かります。

 また、専門的には繊維の長さと幅の比率(長さ/幅)も比べられますが、その比率をみると楮は五一〇、三椏は四二〇、雁皮は四九〇に対して、針葉樹パルプ八六、広葉樹パルプ六〇と、やはり手漉き和紙原料の方が、大きな数値を示しています。

 このような比較から、楮、三椏、雁皮などが長く・細い繊維であることが分かりますが、特に繊維が長ければ繊維に対する結合箇所も多くなるので、その分だけ強い紙ができることになります。

 しかし、どんなに強い紙でも、水に濡れるとひとたまりもなく破れてしまうのは、先にふれたとおりに親水性のあるセルロースの結合部分に水の分子が入りこみ、繊維同士の結合がゆるむからです。

(濱田 康)
             

※参考文献『和紙の手帖』(全和連発行)p10-11 全国手すき和紙連合会発行

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