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【雁皮の紙】
雁皮は、ジンチョウゲ科の落葉低木で、繊維の長さは約3mm、幅0.019mmです。雁皮紙は、古くは、斐紙、間似合紙、鳥の子、薄様などとよばれ、「紙の王様」として存在感を示してきました。光沢があり緻密で粘りがあり、優雅さが紙肌に表れます。虫害のおそれがありません。生育が遅く、栽培が難しいので、山地に野生しているものを採取するしかなく、生産量は多くありません。近年、フィリピンのサラゴが多く使われています。
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越前和紙の鳥の子紙 |
鳥の子紙は嘉暦年間(1326〜28)の文献に初出しており、紙の色が鶏卵に似ているところから、鳥の子紙、鳥の子色紙とよばれ、越前が主産地になっています。『和漢三才図会』には「肌滑らかにして書き易く、性堅、耐久、紙王と謂うべきものか」と称賛され、虫害にかからない特色を買われて、永久的な保存の望ましい書冊の作成に愛用されました。また、雁皮繊維の中に2〜3割の楮・三椏を混ぜることで、雁皮のやや強い光沢を抑え、一層気品の高い、持ち味豊かな鳥の子紙を漉き出す工夫がなされています。 |
名塩和紙の箔下間似合紙 金下地紙(金箔打原紙) |
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出雲民芸紙の出雲雁皮紙 |
故人人間国宝安部榮四郎が正倉院文書の中で見いだした紙で、そのときの感激がこの雁皮紙の復元となりました。原料に雁皮の黒皮を使用することが特徴で、ソーダ灰んで煮た後、5〜6回チリ取りをします。つきうすでついた後、軽くビーターにかけ紙料とします。紙漉きは天地の短い簀桁を使います。乾燥は板干しです、そうすることによって出雲雁皮紙特有の色彩、光沢、紙の腰、肌触りが表れます。主に写経用紙や、永久保存用紙に用いられます。 |
近江鳥の子紙の近江鳥の子 |
別名なるこ和紙。成子哲郎さんの先代が従来の金銀糸の台紙という用途から、新しいものを求めて苦心された成果の一つに国宝の絵画などの文化財の保存修理に用いる雁皮紙がありました。琵琶湖の湖東・彦根方面の雁皮を春に採取し、特に土用すぎまで枝の状態で貯蔵したのち白皮に削ぎます。原料の歩留りは悪くなりますが、鳥の子紙本来の紙色や光沢を出すために特に行っています。煮熟には通常、重炭酸ソーダを加えたソーダ灰を使用しますが(紙が軟らかくなる)、文化財保存修理用には繊維を薬品で傷めないように炭灰で煮熟します。塵取りは手であらよりしたのち、スクリーンにかけます。乾燥はイチョウ材の干し板による天日乾燥。 |
備中和紙の鳥の子(雁皮紙) |
岡山県産の雁皮を使用し、曹達灰と重曹を用いて煮熟し、叩解はホーレンダービーターで行ない、粘剤は黄蜀葵と木糊の混合液を使い、紗漉きにして天日乾燥を行ない努めて古法を用いて仕上げます。紙質は極めて緻密にして光沢がよく、風化せず虫害を受けず、主として仮名書道の小字、中字用として重用され、戦後日本の仮名書道の発展に大いに貢献しました。昭和55年に行われた「東大寺昭和大納経」の料紙にも挙用され「大いなる昭和の遺産」と称せられました。 |