06.01.17up

厳しい豪雪の新潟県から高志(こし)の生紙便第8号が届きました。

25日蔵の雪降しの時の風景。「めめくそ」とはほんのちょっぴり
 
もったいないの物語
 僕は水仕事とはいえ、長靴を五足持っているが傷のあるのものばかり、雨の日に使うとジンワリ靴下が濡れてしまう代物で、この間、川仕事のためまた一足新調した。晴れた日の野良仕事なら使えるし、左がやられたものは、次に右が切れた場合を考えると、合わせて満足な一組になる。元々だらしのない我家の玄関に来客を思わせるほどの長靴が所狭しとひしめき合っているものだから、堪りかねた女房に処分されてしまうことがある。僕がもったいないと怒るので、女房も我慢しての処分なのだから、そんな時は一人知らん顔しているより仕方ない。
 越後では、師走に入れば雨は天気のうちと野外で働く人は言う。何せ積もらなければ仕事はできる。我が、「生紙工房」脇の物置棟(四間×四間)の新築というか旧築というか、建前の日も(12月3日)朝から雪がすこぶる降りっぷりがよくて、レッカー車が柱材を吊り上げる前に、スコップで雪を払い、ほぞの部分はお湯をかけて雪を融かして一本ずつ吊り上げていくという、珍しい工法である。

12月25日、朝、雪降ろし前の蔵

12月29日 生紙工房脇
 実はこの建物も、もったいないから始まったのです。三年前「生紙工房」建築中のちょうど今頃、大工さんたちの一服時間、同じ町内の県道拡幅工事のため取り壊される家が、難儀をして山から切り出された自材(自分の木)で、すべて処分されるらしいとの話。聞けば四、五日後には壊されるとのこと。それはもったいない。ぜひそれを分けてもらおうという話になり雪の降る中、大工さんたちが解体してそのままこの生紙工房脇の空き地に積んで冬を越したものです。しかし建てる場所も資金もないまま今年三年目の冬を越そうとしていた。よくよく見ると地面に近い部分は腐り始めていて、それこそこのままだと使い物にならなくなってしまう。結局現在の生紙工房に接近して建っている資材倉庫を壊して、間をおいて建てることにした。その倉庫も十年程前、古い電柱を土に穴を掘り、分家の大工さんと当工房のスタッフでこれまたミゾレ降るときで、波トタンの釘打ちは手が悴んでみんなが親指まで叩いた記憶がある。先の地震にも耐えたのだが土台のない建物ゆえ、所々腐り始めたので時期かも知れない。
作る場所は決めたが、生紙工房で金は使い果たし、これ以上借金するようなら作らない方がよい。さてさてどうしたものか。ここはバアサン(お袋)にたかるしかない。「いくら持っている?」・・・片手持っているらしい。「その金、老後に備える金なら死ぬまで俺が面倒みるから、俺にくれや」という訳で、工務店さんに片手で完了する図面を描いてもらった。
 県内は地震のあおりで人手不足、なかなか職人が集まらない。例年ならクリスマスの頃まで根雪にはならんだろうと思っていたが、自然は厳しい。
 建前の翌々日は、雪も雨も降らない。知人が新築の家に和紙の壁紙を貼りたいと相談にこられていて、工房二階でお茶を飲んでいると、下界から何やらざわめき声が聞こえてくる。ちょっといやな予感がした。今度は、はっきり救急車、救急車、という声が窓から飛び込んできた。窓を開けると、うずくまっている男に数人が寄り添っている。「誰だ?」と叫ぶと棟梁だという。親友の中村正志さんが気を失っている。7mの屋根から落ちたのだからただでは済まない。何としたことか。夢をみているような光景。怖くてすぐに近寄りがたい自分と、すぐに駆けつけなければと考えている自分が同居した異常な自分がいた。救急車の手配をして下に駆け下りると、コンパネに乗せられ横たわった棟梁は、ヘルメットの紐の下あごがポッカリ切れていたが、カマイタチのようにさほどの出血ではない。もう気がついていて「悪いなあ、康」と言って空を見ている。先生は、「不思議だね、普通7mの高さから落ちたら骨折くらいするはずなんですが、あごも何ともないですよ」。結局、同じ病院に娘さんが出産のため里帰りをしていて、明日退院なので、一緒に一泊して帰ることになった。ベッドから降りた棟梁のポケットから釘がバラバラとこぼれ落ちた。
 翌日から何ともなかったかのように、あごに絆創膏をはった棟梁は。「俺のあごは、そんな柔なあごじゃない」と言って朝早くから夜までトントンやっている。古材とはいえ、カンナで削られた柱材は、新材と見分けが付かないほど太々とした柱に第二の生命が宿ったその木々にちょっとした感動を覚える。これからも頑張ってくれよ。外壁のトタンもちょっと色は失って所々ブチになっているけれど、どことなく緊張感もなく自分に合っている。窓のサッシも見本市のようにアンバランスではありながら、よくぞ拾い集めたものである。
 もったいないづくしの建物に何か救われた気分がする。
「高志の生紙工房」からのお知らせ
【見学、製品ご希望のお客様】
○見学(説明)は無料です。(団体でお越しの場合は事前にご連絡下さい。)
○説明の所要時間は30分程(門出和紙のできるまでのビデオ15分含む)
○最初に工房スタッフに申し出てください。係りの者がご案内申し上げますが、作業の都合等により即対応できず、しばらくお待ちいただくこともありますのでご了承下さい。
○当工房は生産施設でもありますので、道具や原料、製品等には触れないでください。
また、作業中のスタッフに話しかけることもご遠慮願います。

【体験プログラムのご案内】
○体験は前日までに申し込んでください。(団体の場合は早めにご予約下さい。)
プログラム 詳  細 所要時間 料  金
紙漉き
(10枚以上から受付)
半紙判(39cm×27cm)便箋2枚
取判(伝統製法による素材としての紙作り)
約40分 基本料金3,000円+300円(1枚)
他 送料実費
紙流し
(5枚以上から受付)
半紙判の網枠に和紙原料を流し込む(草花を入れるなど作品としての紙作り) 約30分 1枠(1枚)500円〜
他 送料実費
折染め
(10枚から受付)
お買い上げ頂いた和紙を折りこんで染液の中に浸し染にします。(染めた紙は当日お持ち帰りができます。) 約40分 紙代 菊判(92×62cm)500円〜
基本指導料(染料代含む)御1人様300円

※紙漉き、紙流しの紙は、乾燥して後日発送となります。送料実費を含め請求書を同封しますので、郵便振替払込用紙にてお支払お願い致します。


○○○ 生紙工房の開館時間と休日
午前9時〜午後5時まで
(正午〜午後1時まで休憩)
休館日は第3日曜日と祝日


「生紙工房」と「生紙便」に関するお問合せは下記まで
越後門出和紙 小林康生
〒945-1513
新潟県柏崎市高柳町門出
Tel 0257-41-2361
Fax 0257-41-3024
メール info@kadoidewashi.com
URL http://www.kadoidewashi.com
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