07.05.10up

高志(こし)の生紙便第13号が届きました。一部をご紹介します。
 
弥生

屋根の雪下ろしを一回もしない冬など自分の記憶の中にはない。
いんの抜けた冬であった。村の衆は、早くもこの不自然に夏を心配している。いつもなら三月ともなれば、お天道様が顔を出し、その下で紙を板に貼り付けて、行ったり来たりのはずなのですが、ほんの数日しかなかった。しかも継ぎはぎ継ぎはぎの天気で板を中にしまったり、外に並べたりを繰り返している。雪中に埋まっている紙床もその雪が日々やせ細り、保存も難しい状態になり、空を睨み付けている今日この頃である。
 三月六日、地元、高柳中学校十五名の卒業式が行われた。何とも清々しき悲しくも美しい卒業式であった。式の前にPTA発行の「高中通心」を見ていた。『あなた達は、高柳地域の自信作です。自身を持って次のステップに進んで下さい。あなた達の笑顔が大好きです。その笑顔を忘れずに!』と、僕の同級生、中村圭希のメッセージがあった。彼の三番目の息子の卒業式でもあった。

4月6日
久しぶりの晴天。紙板裏の雪室は銀シートに
覆われているけれどもう陥没寸前
高柳中学校は、地域の中に入った『気づき』の教育にも熱心で狐の夜祭りを一緒に準備から手伝ってくれたり、各集落、集落のお盆の行事の準備から後片付けまで共に行動してきたので、地域の人とも顔馴染みの人が多くなった。また、彼らは総合の時間で、今後の高柳の進むべき方向について研究していたし、そのためのシンポジュームも開かれ、小生もパネラーで参加させてもらった。
地域を愛する心に大人たちは感動し、そうした子供達のためにも頑張り、姿勢を示さなければならないと感じた。門出小学校も山の子米を地域の人も一緒に手伝いながら、田植えから田の草取り、稲刈り、脱穀をする。
その子米は、東京表参道、新潟館でアピールしながら配布。その折毎年当かやぶきの里を訪れ、交流している東京文化小学校の生徒たちも応援に駆けつけて下さる。二年ほど前から彼らの家に前泊もさせてもらっている。紙作りにおいても、紙を漉く部分、つまり「作る部分」だけではなく、楮の栽培から「育てる」部分に関わることで、子供達は「愛情」を手にすることができるのであろう。こうした教育ができるのも、小規模校であり、その周りに年寄りが多くいて、本物が存在しているからだ。そのことが本来「豊かさ」といえるのだろう。
 しかし、40年近く前、自分達の卒業式は、この高柳には3校あって、総勢170名程度だったから、10分の1にも満たない子供の減少。65歳以上のお年寄りも人口の五割に迫る勢いで、限界集落といわれる70%以上の地区がいくつもある。どう元気をだせばいいのか。日本の「ひと」が織り成す原風景が音もなく消えて行く。一緒に日本人らしい心まで消えていきそうだ。

4月3日
生紙工房前の斜面に花を開いた
かごばな(ショウジョウバカマ)

 自分が二十代の頃、バイクで山奥の村を走っていて、そこに、風になびくおしめを見て「この村にはまだ赤ちゃんがいる」と心が熱くなったことがあった。最も今は紙オムツの時代だから、そのような風情は消えてしまった。
 村の若者達は、みんな気の良いまじめ者が多くて、年配者から見れば最高の男達だけど、女を引っ掛けるのが大の苦手。若い女の子が少ないからなおさら大変だし、少ない女の子もその分、周りの視線が強まり、生きにくいことであろう。
 都市と農村、何とかならんもんだろうかとつくづく思う。
小林康生

「生紙工房」と「生紙便」に関するお問合せは下記まで
越後門出和紙 小林康生
〒945-1513
新潟県柏崎市高柳町門出
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